石原 純 Jun Ishihara, PhD.
(University of Chicago)
【イリノイ州】 審査員氏名: 加藤 遼 先生(Postdoctoral Scholar, Institute for Molecular Engineering, University of Chicago) 佐井 宏聡 先生(Postdoctoral Fellow, Simpson Querrey Institute, Northwestern University) 佐野 晃之 先生(Assistant Professor, University of Illinois at Chicago, College of Medicine)
受賞者紹介
【イリノイ 受賞論文1】 受賞者氏名:石原純 研究分野:Bioengineering for Cancer therapy 留学期間:3-5 years 論文リンク http://stm.sciencemag.org/content/9/415/eaan0401/tab-pdf
審査員コメント
がん治療へのアプローチとして、申請者は免疫チェックポイント機構の阻害抗体に着目、新たな抗体を用いることで抗体が腫瘍の周囲に滞留するよう改良し、全⾝性の副作⽤の軽減を達成した。結果のインパクトの高さと、従来と異なる手法を用いた研究の独創性は称賛に値する。今後のがん治療への応用に是非期待したいです。(加藤先生) 全ての論文が、発表されてからわずかな期間ではあるが、ニュースアンドビュー等で取り上げられていることやCitationが付いていることを、分野が違う論文を比べるのに重要視した。論文の内容は、がん免疫療法に極めて重要であり、その治療効果を高める方法を、マウスモデルを用いて検証している。ヒトへの応用の可能性を感じた。ポスドクからのキャリアアップに十分な論文であると評価できること、ヒトへの応用が容易に想像できることから、次の仕事への期待を込めて、評価した。(佐野先生) 昨年のノーベル賞にもなった免疫療法の弱点である重篤な副作用の軽減につながる、学際的な研究論文です。In vitro, in vivoともに非常に緻密な実験構成がなされており、大変勉強になりました。今後開発される他のチェックポイント阻害剤への応用や、Matrix-binding peptideに比べよりがんへの標的性の高いシーケンスと組み合わせた修飾など、さらなる研究の発展が見込まれます。(佐井先生)
論文内容
免疫チェックポイント機構は免疫細胞の過剰な攻撃から宿主組織をまもるための免疫系のブレーキである.近年,がんは免疫細胞の攻撃からのがれるため免疫チェックポイント機構を利⽤することが明らか にされている.そのため,免疫チェックポイント機構の阻害はがんの治療における有望なアプローチである.その代表的な薬剤として,抗CTLA4抗体および抗PD-1 抗体がある.その併⽤療法は臨床試験において⾼い抗腫瘍効果を⽰したが,患者の69%が重篤な副作⽤を⽰し,その36%は副作⽤のため治療をつづけることができなかった. 本研究において,筆者らは,全⾝性の副作⽤を下げるため,免疫チェックポイント阻害抗体に細胞外マ トリックスに⾼い親和性をもつペプチドを化学修飾することにより腫瘍の周囲に滞留するよう改良した.この免疫チェックポイント阻害抗体は⾎中における濃度の低下や⾃⼰免疫疾患である1 型糖尿病の発症のリスクなどを含む全⾝性の副作⽤の軽減を⽰した.また,癌周囲への薬剤滞留によって、改変抗体はメラノーマあるいは乳がんのモデルマウスに対し通常の免疫チェックポイント阻害抗体よりも⾼い抗腫瘍効果を⽰した。また、腫瘍において活性化したCD8 陽性T 細胞およびCD4 陽性T 細胞を増加させることにより遠隔に存在する同種の腫瘍に対しても抗腫瘍効果を⽰した.以上より,この技術を⽤いた免疫チェックポイント阻害抗体はより効果的で安全性が⾼いと考えられた.臨床において⽤いられる量の25%の投与でも抗腫瘍効果が観察されたことから,投与量を減らすことも可能かもしれない.これらの結果は,副作⽤の問題により全⾝への投与が適⽤できない患者や副作⽤により治療を断念した患者に おいて有望な結果である.局所への投与と徐放との組合せはバイオマテリアルキャリアを⽤いたものが報告されているが,筆者らは,分⼦⼯学的な⼿法を⽤いて抗体それ⾃体に滞留性をもたせた.これによって,実際に使う際の簡便性が⾼まると考えられる.
受賞者コメント
免疫チェックポイント機構は免疫細胞の過剰な攻撃から宿主組織をまもるための免疫系のブレーキである.近年,がんは免疫細胞の攻撃からのがれるため免疫チェックポイント機構を利⽤することが明らか にされている.そのため,免疫チェックポイント機構の阻害はがんの治療における有望なアプローチである.その代表的な薬剤として,抗CTLA4抗体および抗PD-1 抗体がある.その併⽤療法は臨床試験において⾼い抗腫瘍効果を⽰したが,患者の69%が重篤な副作⽤を⽰し,その36%は副作⽤のため治療をつづけることができなかった. 本研究において,筆者らは,全⾝性の副作⽤を下げるため,免疫チェックポイント阻害抗体に細胞外マ トリックスに⾼い親和性をもつペプチドを化学修飾することにより腫瘍の周囲に滞留するよう改良した.この免疫チェックポイント阻害抗体は⾎中における濃度の低下や⾃⼰免疫疾患である1 型糖尿病の発症のリスクなどを含む全⾝性の副作⽤の軽減を⽰した.また,癌周囲への薬剤滞留によって、改変抗体はメラノーマあるいは乳がんのモデルマウスに対し通常の免疫チェックポイント阻害抗体よりも⾼い抗腫瘍効果を⽰した。また、腫瘍において活性化したCD8 陽性T 細胞およびCD4 陽性T 細胞を増加させることにより遠隔に存在する同種の腫瘍に対しても抗腫瘍効果を⽰した.以上より,この技術を⽤いた免疫チェックポイント阻害抗体はより効果的で安全性が⾼いと考えられた.臨床において⽤いられる量の25%の投与でも抗腫瘍効果が観察されたことから,投与量を減らすことも可能かもしれない.これらの結果は,副作⽤の問題により全⾝への投与が適⽤できない患者や副作⽤により治療を断念した患者に おいて有望な結果である.局所への投与と徐放との組合せはバイオマテリアルキャリアを⽤いたものが報告されているが,筆者らは,分⼦⼯学的な⼿法を⽤いて抗体それ⾃体に滞留性をもたせた.これによって,実際に使う際の簡便性が⾼まると考えられる.