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環境、興味、たまに空転、研鑚、そして今後。

執筆者:

藍原 祥子

留学先:

ネスレ研究所(Nestlé Research Center)

ずっと東京に居て私は少し飽きていたのか、博士号取得後は世界最大の食品企業、ネスレの研究所に行くことにした。海外の長期滞在は初めて。第二外国語のフランス語も初めて活躍する機会となったが残念なことに「Je suis étudiante(私は学生です)」なんてもう使えなくなっていた。 研究所のあるローザンヌはレマン湖北岸に位置する。周囲はワイン畑、視界の端は白い峰に遮られ、2時間も移動すれば2000m超のスキー場というロケーション。研究所内の共通言語は一応英語で、全体メールはフランス語が優先になる。所員700は50の国民で構成されるとはいえ、スイス、フランス、ドイツが7割近くを占め、アメリカもアジアも約10名ずつ、日本語話者は3名だった。その日本人同僚に研究キャリアがあったからか、日本企業からの訪問があると私にも相席の機会が与えられた。私の所属は農芸化学なので食品科学系の企業とは縁が深く、他企業との奇特な繋がりを得られたことは、研究内容をちょっと差し置いても替えがたい。 近隣にはスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)とローザンヌ大学があって、約30名の日本人研究者がいた。人数が少ないので(たぶん羊の方が多い)自然と他分野に触れることになった。他分野との交流は日本で築いたよりも濃密で印象深く、視野を拡げる切っ掛けにもなり、今に繋がっている。 私が大学のポストを欲したのは、スイスの経験なしには考えられない。出国前に恩師が「実験しなさい。英語はそれからよ。良いデータはみんなが聞きに来るのだから」と声を掛けてくれたが、いうまでもなく研究者にとってデータは最強の共通言語である。研究の価値はどこでも等しく評価されるべきで、研究はどこでだってできる筈だ。そうするとどんな繋がりをどのように得たかで、私たちの個性は決まってくるのかも知れない。それも経験の顕れだと考えると、他所に身を置くことはその後に繋がる可能性をいくつも拓いてくれるのだと言えないだろうか。

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​編集者より

​執筆者紹介:

編集後記:

編集者:

黒田 垂歩

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